Google AI をマーケティングに活かすために、適切な効果測定は欠かせません。
しかし近年、各社がユーザーのプライバシー保護を強化する中で広告環境も変化し、アプリ領域での正確な測定が難しくなっています。
十分なデータ量を確保できないと、効果測定の基盤が揺らぎ、マーケティング投資の意思決定が難しくなるのに加え、アプリ キャンペーンなどマーケティングを支える広告手���の AI �����度にも大きな影響を与えます。計測環境の変化によってツール上での広告効果が下がり、配信を縮小せざるを得なかったマーケターもいるでしょう。
しかし、こうした環境変化にもいち早く対応し、Google AI を最大限活用して成果につなげているアプリビジネスもあります。株式会社アドベンチャーの事例を紹介します。
売り上げの 4 割がアプリから、スカイチケットの現状
アドベンチャーは、格安航空券を比較、購入できる「スカイチケット」を運営しています。Web に加えて 2015 年からアプリを展開するなど、オンライン旅行代理店としてはかなり早くからアプリに注力していました。
アプリでのコンバージョン率(CVR)は Web よりも高く、現在スカイチケットの売り上げの 4 割以上がアプリ経由です。LTV の観点でもアプリユーザーは効率的であり、いかにアプリへ誘導するかは同社のビジネスにおける優先事項の 1 つでした。
その中で重要な役割を担っていたのが Google のアプリ キャンペーンです。計画予算内で余すことなく配信しやすく、またインストール後の購入転換率が悪化しづらいことから、アプリのマーケティング予算の大部分を投資してきました。
計測環境の変化に対応した広告投資の新たなアプローチが必要に
しかし各社がプライバシー保護を強化する中で、広告の計測環境も変化し、アドベンチャーとしても広告投資の見直しを迫られました。アプリ キャンペーン上で正確な広告効果を計測することが困難になり、CVR やチャネルごとに手動での補正を余儀なくされたのです。
加えてデータの不足で広告配信は予算通りに進まず、パフォーマンス指標も悪化。広告の効率を維持しながら、アプリのインストール数を伸ばしていくことが、目下��課題になりました。
ODM の導入を決定、わずか 1 週間で課題解決の基盤をつくる
アドベンチャーでは特に、iOS アプリの計測補完が急務だったため、Firebase 向け Google アナリティクスの SDK を通じた、オンデバイスのコンバージョン測定(ODM)を導入しました。プライバシーを保護しながら、iOS のアプリ キャンペーンにおけるインストールとアプリ内ユーザー行動を測定できます。
導入にあたっては、測定に使われるプロトコルを法務チームに丁寧に確認してもらい、プライバシーポリシーに準拠していることも確認しました。
通常、こうしたプライバシーポリシーの社内確認が、データ基盤の整備を進める上での障壁になるケースも多いでしょう。しかし、国を問わず世界中で利用されるオンラインの航空券予約サイトというサービス特性上、素早い意思決定が欠かせないため、同社には経営層とマーケティング部門が直接やり取りできるコミュニケーションラインがありました。マーケティングや広告運用の方針も、マーケティング部門に閉じることなく経営レベルで日々議論されていま��。こうした組織体制も、ODM 導入が円滑に進んだ一因です。
また意思決定を具体的な施策に落とし込むときには、エンジニア、法務、マーケティング部門が、チャットツールで密に連携できる体制があったことも、迅速な対応につながりました。
その結果、マーケティングチームの提案から約 1 週間という異例の速さでの実装を実現できたのです。
iOS アプリのインストール数は 2 倍、アプリ内でのチケット予約は 1.7 倍に
ODM 導入後、アプリ キャンペーンが参照できるデータが増えたことで Google AI の精度が向上し、iOS アプリでの広告効果も大幅に改善しました。
同額の予算と入札戦略で導入前後の結果を比べると、iOS のアプリ キャンペーンでのインストール数は約 2 倍に、スカイチケットアプリ内でのチケット予約は約 1.7 倍に増加。今回は特に YouTube 広告経由でのインストールが大きな成果につながりました。
以降、スカイチケットのアプリユーザーに占める iOS の割合が徐々に伸びています。早期の ODM 導入が、2023 年後半のアプリビジネス成長の一因になったと、同社では振り返っています。
素早い意思決定は、AI 活用の土壌があったからこそ
今回見たようにアドベンチャーでは、経営層と現場間、部門間でサイロを超えて連携できる組織体制があり、マーケティングサイドとビジネスサイドの目線がそろっていたことが成功を支えました。その体制があったからこそ、広告効果を最大化するために計測を補完する必要があった際にも、スピーディな意思決定と実装を実現できています。
結果的に、一連の取り組みは Google AI の精度の改善にもつながり、アプリのインストールや、ひいては売り上げにも寄与しました。Google AI によってマーケティングを起点にビジネス成長を実現した好例です。
このように、AI の力でマーケティングの価値を高めビジネス成果につなげる鍵として、Google は「グロース・トライアングル」というフレームワークを提唱し、そのために必要な「そろえる」「すすめる」「みつめる」の 3 要素を挙げています。
アプリビジネスは、KPI とするビジネス目標が比較的そろいやすく、またアプリ キャンペーンなどの AI ソリューションも整っているため、これまで 3 要素を推進できる先進的な環境でした。
しかしながら、近年の計測環境の変化によって「みつめる」ことが難しくなり、連鎖的に 3 要素が後退することが懸念されています。
そんな中アドベンチャーでは、ODM 以外にも、データドリブンで素早く意思決定するためにさまざまな製品を導入してきました。たとえば Google アナリティクス 4 をリリース初期から導入していますが、これもデータに基づいた仮説検証で大きな役割を果たしています。
また今後は、Google Cloud Platform を通じて、アプリだけでなくあらゆる部門間でのデータ連係を進める予定だということです。ホテルやレンタカー、ツアーなど旅行に付随するサービスの予約もサポートしている同社にとって、各チャネルのデータに部門横断でタイムリーにアクセスできる環境が重要なのです。
このように計測ハードルが上がるアプリ業界でも、Google AI を機能させ続けるために工夫をしてマーケティングの力で前進し続ける企業があります。もし今懸念があれば、まずはこのグロース・トライアングルの 3 要素に企業の課題を当てはめ、突破口を見つけるヒントにしてみてください。
同じく、アプリビジネスを展開する株式会社バンダイナムコエンターテインメントの事例も取り上げています。同社もグロース・トライアングルの、特に「みつめる」を起点に、広告のビジネス貢献を明らかにしました。
Contributor:石平 彩乃 (旅行業界担当 インダストリーマネージャー)/ 郭 鎧伊(アプリプロダクトエキスパート)/ 高松 晴雄 (広告ソリューションアーキテクト)